深海マザーオンラインショップにて、カップメンダコの陶器製シリーズ「ポテリー」14種を新たに発売しました。ポテリーシリーズは、陶芸家「有麒堂」の全面協力で、約2年の試作期間を経てついに本格発売となります。
今シリーズのコンセプトは、宇宙です。
なぜ宇宙かというと、陶器は窯の中で1200度もの高温に晒される時に、ガラス質や金属質の釉薬がドロドロと溶け混ざり、冷え固まると信じられないほど美しい質感を生み出します。その様が地球を始め、宇宙の営みそのもののように感じて取れるからです。
身近な太陽系(といってもとんでもなく遠いのですが)の恒星である太陽を始め、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の8惑星と、イオ、エンケラドゥス、タイタン、トリトンの4衛星、超高密度超重力天体ブラックホールを併せて全14天体をモチーフとしました。
それから、カップメンダコ自体が深海生物のメンダコをモチーフにしています。メンダコはその姿から、「UFO」とか「宇宙生物」とか「地球外生命体」などと言われることが多々あります。地球の海に生息する一般的なタコとは少し違った姿をしているからでしょうか。はたまた「火星人=タコのような生物」のような定着しているイメージから連想するのでしょうか。
陶器=宇宙=メンダコ
こんな関係が成り立つ完璧なモチーフのような気がしてなりません。太陽系から除外された冥王星の代わりに、メンダコしか棲んでいない惑星「面王星」という星を作って「水金地火木土天海面!」と叫びたくなるほどです。
カップメンダコが生まれる前の地球では、カップ麺の蓋として乗せる重しは、お皿やお椀状のものを被せることがあたりまえな時代でした。これがまた、重しとしてはパーフェクトな感じで何の文句のつけどころがありませんでした。実は今でもそうです。身近にあるものを使って新しい価値を生み出し利用する。これに勝るものはありません。ですが、ここで大きな問題が起きています。
お皿ではつまらない
そこで、陶器の耐熱性と重量感などお皿のいいところを残したまま、カップメンダコと掛け合わせてつまらない部分を補足したものが、今回の現代的なデザインの作品群ポテリーシリーズです。
「約2年の試作期間」とありますが、なぜそんなにかかってしまったかといいますと、やはり陶芸作品に使用する「陶土」という材料の性質により一筋縄ではいかないところがあったからです。
初めは、通常のカップメンダコを量産するために使用しているシリコーン型を有麒堂さんのサトルさんに託し、量産を試みようとしたのですが、陶土が水分を含んでいるので乾燥させると縮んでしまうのです。窯で焼くとさらに縮むそうで、試作初期の頃はコインランドリーの乾燥機に入れてしまったセーターのように微妙に縮んでしまっていました。
そのあたりのことはこちらの過去記事にも綴っていますので覗いてみてください。
これはこれでなんとも愛らしい感じだったのですが、「このままでは機能は満たすが乗っている様が美しくない」ということでサトルさんに相談しました。やはりカップ麺の容器にピタリと乗ったほうがおもしろいですよね。実際に焼かれたものからどのくらい縮んでいるのか割り出してもらいました。
縮む分、拡大しましょう。
しかし、立体作品は画像データなどとは違い、簡単には縮尺を変えることができません。原型を一から同じように作ることも考えましたが、一度作った原型を同じように作れる気がしませんし、作る気にもなれません。
仕方ない、アノ手でいくか。
3Dプリンタの登場です。3Dプリンタは、3Dデータから立体物をプリントできる画期的なマシーンです。昨今では随分と価格が下がり、ハイエンドなものから家庭用の自作キットのような形のものまで様々な機種が販売されています。
いつか、3Dプリンタが一家に一台の時代が来た時、カップメンダコの3Dデータをご家庭でプリントアウトできるようになったらいいですね。
こんなに安価ならそろそろウチも雇ってみようか。そう思いつつ調べていると、再現精度に差があることがわかってきます。しかも価格によってどの程度の差があるのか感覚的にわからないので、どれを導入すれば自分のやりたいことができるのか、まったくわかりませんでした。
さらに、いま立体物として既にあるカップメンダコの原型を、一度3Dデータとしてデジタル化しなければならないので、立体物をスキャンするための3Dスキャナーが必要です。これもまたスキャン精度の度合いがちっともわかりません。
さらにさらに、3Dデータを操るための3Dモデリングソフトのオペレーションの難易度の高さが城壁のように立ちはだかり、これで完全にとどめを刺されました(今日のところは)。
まぁいいや、外に頼もう。
最初からそういうサービスがあることを知っていましたのでそうすれば早かったのですが、お金を払う価値がどのくらいあるのか知るには、自分で調べ、ぶつかり、絶望し、己の非力さを十分知った上で、改めて人の偉大さを知ることは大切なことでなのです(結局、サービスの精度はわからないので「お金を払う=精度が高い」と言い聞かせるしかないのですが)。
早速、カップメンダコの原型を3Dプリント代行サービスに送って託します。3Dプリント時に出力する造形物の素材も様々で、石膏や樹脂といった身近なものから、ガラスやチタンといった金属などでも出力できます。価格が相応で手のでない素材もたくさんありましたが、傷が入りにくい且つ安いもので、いやそこそこのもので絞り込むと、ナイロン素材で出力することに決定しました。
数日後、拡大された3Dデータを元に3Dプリンタで出力されたカップメンダコの原型が届きました。初めて対面したそれに、ロマンチックが止まりませんでした。特有の積層痕は若干ありますが、表面処理をすれば問題ないレベルです。人類はなんて画期的な技術を生み出してくれたのだろう。これを応用すれば、もっと拡大してどん兵衛サイズのカップメンダコも作ることが可能になります。
これで陶土が縮んでも上手くいくはず。拡大された原型からシリコーン型を作り、サトルさんへ手渡して試作してもらうと、
目がうまくいきませんねぇ
なんでも、通常の眼球のような形状では釉薬が流れてしまい、目に色が乗らなかったり、溢れて涙目になってしまったりするようです。そこで、釉薬が湖のように溜まるよう、思い切って原型の眼球を削り取り掘り下げることにしました。これでうまくいってくれるだろう。
裏側の吸盤をポツポツやるのがめんどうですねぇ。スタンプのようにポンッとできませんかねぇ。ついでに有麒堂の「有」の字も押せたら簡単でいいですねぇへっへ。
さすが和の職人。余計なシゴトはしないのは当然か。できる限り工数を減らす努力をすることは当然のことです。セブン、イレブン、いい気分、でシゴトをしてもらうために裏面の原型も作ることにしました。今度はどうだ。
耳(ヒレ)の取っ手の部分を大きくして持ちやすくしておきました。陶器は重くて落としたら危ないですからねぇへっへっへっ。
できた。サトルさんが笑っている。へっへと笑っている時は上手くいった証拠なのです。
あとは釉薬を宇宙の惑星のイメージでいくつかお願いしますとだけ伝え、太陽系の写真を送りました。時間がなくてテキトーな写真を渡してしまったにも関わらず、サトルさんは惑星に加え、衛星までも見事に表現してくれ、こうして渾身のコラボ作品、陶器製カップメンダコ「ポテリーシリーズ」は完成したのでした。
本格発売ですので、桐箱とまではいきませんが立派な紙箱に入れ、コラボ作品を表す和文様の帯を巻いて丁寧にお届けしたいと思います。
有麒堂
陶芸家。主に国内でイベントに出展したり個展を開いたりと活躍するが、2017年にはロンドンやニューヨーク、パリなどで開催される世界的な展覧会「DISCOVER THE ONE JAPANESE ART」に出展した経歴がある。