前記、集合部屋 – しんかい6500特別見学会からのつづき…
頭を上げて窓の外を見ると、入り口の警備員がボクらに向かって敬礼していた。前方には、荒れた海面が太陽を乱反射させ、歓迎しているのか、拒絶しているのか、ボクには分からない表情を見せながら光輝いていた。
ボクは法を侵してなどいない。何も悪いことはしていないんだ、という強い想いが届いたのか、風が目的地へと運んでくれたようだ。(怯える理由が分からない)
JAMSTEC横須賀本部、潜入成功。
バスを降りると、皆がまずそこに広がる海を眺める。理由など何もない。ただそこに海があるのだ。その行動から、乗っていたのは全員同じ種の生き物だということを確認し、自然に出来た列が続く先へと歩き出した。
手前の巨大な黒い爆弾みたいなのが気になる |
集合場所に集められ、ヨシザワさんからごあいさつや今日の予定などを聞かされていた。若い女性や子供たち、おじさんから取材陣まで、いろんな小豆が選別されたんだなあと、キョロキョロしてたらあるヒトと目が合った。
ワツジさんがボクと代表を見てニヤニヤしているではないか。
集合の地 |
ボクらは、約4ヶ月前にもこの地に来ていた。やはりQUELLE2013絡みのイベントで、インド洋の航海後に生きているかもしれないスケーリーフット特別見学会という緊急イベント告知が発令された。スケーリーフットっていうのは後のレポートでも登場するかもしれないが、鉄で創られた鎧のような鱗を持つことで、自分の弱みを見せまいと引き篭もる、深海でも本当に珍しいかもしれない巻貝のことである。
珍しいとはいえ一体何が緊急だったのか。実は水揚げした後に生存させるのが大変難しいらしい。鉄なので錆びてしまったりもするのだ。そんな生き物を「日本まで生かして持って来たんやから見に来いや、さっさとしないと死んでまうで」ということでのレアイベントだった。
この時のスケーリーフットの飼育に関わったのが、このワツジさんである。そしてこの方には異名がある(JAMSTECの方には大抵異名がある気がするが)。
必殺飼育人
ただの「必殺仕事人」のモジリじゃあないか。
”必殺” とか言っちゃって、飼育どころか殺しちゃってるじゃん。
この時ボクらはまだ知らなかったんだ
その異名が持つ真の姿を
そのイベントに参加させていただいたので、JAMSTECに潜入したのは今年に入って2回目となり、これで人生の「JAMSCHECK(ジャムスチェック)」も ”2” がカウントされた(ちょっとキタコレ)。ボクは一般公開には参加したことがないので、きっとみなさんはもっと高い数字が刻まれているのだと思う。ワツジさんにはその時に一度しかお会いしていないにも関わらず、ボクらの事を覚えていてくれたというのが分かって、同じようにニヤニヤし始めた。挨拶を交わすとすぐに「ちょっと運がよすぎるんじゃない?エへへ…」と言われ、すぐにその意味を理解して今を深く噛み締めた。
実は今イベントに関しては、「運」の要素は強いのかもしれないが、前イベントの時は完全に早いモノ勝ちの先着順であった。2日間に分けての合計60名の席が、平日にも関わらずにアッという間に埋まったのだ。要するに、「会社をすぐに休める」、「仕事をしていない」、「引き篭もり」、「社会に必要とされてない」、「クズ」など(全部同じように見えるが)の条件がクリア出来ていないと参加するのは困難を極めた。参加できたヒトビトは大いに喜んだことであろうが、単に「社会のクズランキング60」にランクインされただけのことである。そのことをワツジさんは承知の上で、ヘラヘラとしていたのだろうか・・・・・・。
このようなことは後日、「深海アトランティス連邦大統領首席補佐官のケン・タッカイ氏」が実際に感じたとされることを、全国民へ向けて演説されていたので周知の事実である。この異名(というか自称みたいなの)を持つ方についてはまた後で書くかもしれない。
集合の地から、目的地「しんかい6500」の整備場まで、港沿いの真っ直ぐな道を少し歩くようだ。すると、どなたかが、一緒に付き添ってくれながら色々と話を聞かせてくれた。「この真っ直ぐな道はねぇ、昔は滑走路だったんだよぉ」。それを聞いた瞬間、突然上空が気になって前後の空を素早く見渡し、「ふぅ、飛行機ヨシ…」と安心した。飛んでくるわけがなかろう。飛んでくるとしたら代表から繰り出されるヘビのようにしなるタイキックぐらいだろう。意味もなく蹴りを喰らうのがボクの日常なのである。
するとここで周囲の空気が変わった。ついに ”ソコ” が見えてきたらしい。御一行のテンションが一気に上がり始め、熱を発してくるのを感じる。もちろん表にある「しんかい6500」のレプリカに対してではない(これはあちこちで展示されてるレプリカよりも遥かにレプリカらしいレプリカで、たぶん本物と間違えた奇特なヒトはいなかっただろう)。その奥にある建物がオオグチボヤ、いや、フクロウナギ、いやいや、メガマウスのように巨大な口を開けて待っているからに他ならなかった。
「しんかい6500」整備場の前にある寂しそうなレプリカ |
ボクらと大口の距離が縮まるに連れて、興奮と緊張が増してくる。全員の全神経が、あの未知の領域、先の見えない暗黒の大口の中に集中している。
うおおおぉぉぉぁぁぁ・・・・・・!!!
す、吸い込まれる・・・・・・!
あの中はなにかヤバイ・・・なにか次元が違っているぞ・・・!
ねぇねぇ、サクラエビじゃあないんだよ?
見ろ!ヒトがエビのようだ!! |
普段よりも見えにくかったんだ
急に暗い所へ入ったからではない
眩しかったわけでもない
その存在が大きすぎたのか
遠すぎる存在だったのか
ただハッキリと見えたのは
あらゆる極限を超え続けてきた姿
己との闘いに勝利し続けてきた姿
深くて生々しい傷を負い
万人からの愛を受け入れる
”漢” がそこにはいたんだ